にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

二次創作『イニストラードを覆う百合の隆盛 1』

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 スレイベンの町外れにある小屋には歳若い
吸血鬼が住んでいると言われている。賢明な
多くの者は近寄るどころか目を向けさえしな
かった。元々がひっそりした場所であり、誰
かが困るわけでもないので、噂話の他には誰
も気に留めず、求めていた事情と合致した。 

 一人の人間が扉を叩いた。スレイベンでも
指折りのベテラン検査官と名高い、壮年の女
性だ。この家には向けるのは民衆が知る厳し
い視線ではなく、緊張の解れた瞳であった。
 扉が開き、吸血鬼の女性が顔を出した。

「やあおかえり、長かったみたいだね」
検査官は荷物を置きながら答えた。
「そうね、たっぷり6時間も。おかげで今日
見つけた手がかりはたっぷり29個だよ」
「お疲れ様、マッサージしてあげようか。先
にご飯がいいかな。それとも」遮るように切
り出した。「あなたは、いいものは見つかっ
たの?」
 吸血鬼の言うマッサージは人間には刺激が
強く、彼女が作る食事はとても食べられる物
ではない。どちらも思い出すだけで吐き気を
催すので、無理矢理にでも話題を変えたかっ
たのだ。

「大漁。またサメが活躍する夢を見てる人が
いてね、退治に使った丸太に似た丸太を拾っ
ておいたから、いつでも頼ってね」
 人間から見ると、吸血鬼は見た目や言動に
反して感性があまりに幼い。検査官も呆れ半
分で安楽椅子に座った。冬の床板より冷たい
座面にも慣れていた。

 他愛ない話をしながらでも、検査官の職業
病か、顔色を手がかりとして捉えた。
「変な奴ばっかり見てない? あんたの精神
まで心配になるよ」
「この顔は、君の帰りが遅かったからだぞ」
「精神病棟ばっかりじゃなくて、たまにはど
うだい」
 検査官と吸血鬼は共に小さな頭陀袋に手を
かけた。
「久しぶりの夜のお散歩だね」

 二人はスレイベンの外れ、町のゴシップ屋
に紹介された名所、ソリン岩に来た。記事か
ら数年のうちに、何者かによってその口は岩
に埋もれていた。
 まずは記念撮影をした。もちろん、右肩を
下げるポーズだ。
 あまり気分がよくなかったので、改めて別
の場所で記念写真を撮った。

 出会った当初と比べて夜の散歩は遠くまで
歩くようになった。この日はネファリア地方
を一望できるホテルへ向かい、休憩すること
にした。
 その道中、溺墓の前を通る検査官の目は輝
いていた。やっぱりお互い結構な物好きねと
笑いあった。
 ホテルハンウィアーは、過去に栄えた要塞
からその名を借りている。人と馬と住居が共
に暮らす、二人三脚の助け合いの精神を掲げ
ているのだ。
 この屋根の下、二人はいつにも増して仲が
良かった。

 夜空から二人を見下ろす、銀の月が満足げ
に微笑んでいた。