にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『脱いだらすごいんです 2』

『脱いだらすごいんです』

 高嶺の花だと思っていた彼女と隣の席になってしまった。
皆はビールや日本酒を注文する中、彼女は恥ずかしそうにウーロン茶を頼んだ。
お酒が苦手でもいいんだと言い合う中、僕は悪いことをしているような気がした。
無理して飲みの席に来たのではないか、断りにくい雰囲気だったのではないか。

 考える肘を引かれて我に帰った。隙間ができたその一瞬で肘に絡む腕。
誰なのか、何があったのか、手に持つグラスの中身が物語っていた。
店員さんがウーロン茶と間違えてウーロンハイを持ってきたらしい。
顔が赤くなり、その身体つきは普段とは大きく違う印象になっていた。
「あたし、脱いだらすごいんですよぉ」
抑圧されていた内面とでも言いたげに、
腕を絡めたままで話し始める。
雲の上の人と思っていた方が近くにいる。
それだけで頭いっぱいになり、続く言葉の内容は右から左へ抜けるばかりだった。

 成り行きでホテルまで来てしまったらしい。
「見せてあげますよぉ」
彼女はそう言って服を脱ぎ捨て、
その下に秘められた全てをさらけ出した。

 そう、彼女の正体は自動販売機人間だったのだ。
しかも押した番号に応じてバスケットが動くタイプだ。
都心への営業の帰りに、駅で何度か見かけたので使い方がすぐにわかった。
驚きのあまり服を着せようと思ったが、つい数分前まで華奢だった面影はなくなり、
身の幅1メートルの自動販売機が露わになっている。
服の下にどうやってしまっていたのだろう。女性のファッションは難しいな。
183センチメートルの自動販売機の身に、頭と変わらず長い脚を持つので、
部屋から出そうにもドアと窓で引っかかり通れなかった。

 観念して自動販売機のボタンを押すことにした。
中を見ると、缶ジュースを思わせるポップな形に"永遠の愛"と書かれている。
これはあまりに身の丈を知らない選択に見えた。
だからといって隣に見える"一夜限りの愛"を選ぶのは卑しい気もする。
決断がこんなに重いものだったとは想像もしていなかった。
 ひとつだけ字の書かれていない缶があったので、その棚の番号、119を押した。
ぐわんぐわんと機械音を鳴らしながら体内でバスケットが動き、缶を入れて、
取り出し口まで運んできた。
「ありがとう、失礼します」
声をかけてから、取り出し口に手を入れた。

 開けるとその中から救急隊員が現れて、全員を救急車に担ぎ込んだ。
それからのことはよく覚えていないまま、自宅の布団で朝を迎えた。
「あなたのように真剣に考えた末にこれを選んだ人は初めてです。
すごかったでしょう?」
誰かからそう言われた夢を見ていたような気がした。