にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『3次創作 アークライト教授の部屋』

『3次創作 アークライト教授の部屋』


 律儀な3回ノックでドアが開いた
「失礼します、アークライト教授」
句点まで打って手を休め、顔をあげた。
「俺の研究室に何の用かな?」
「はじめまして、私はソフタ・イフカイノといいます」
教授の返事は素っ気ないものだが、
要件を言うために来た。すぐに続けた。
「うちの倉庫にて不可思議なことが起こるもので、
ゴーストポケモンの専門家に助力を願いに来ました」

ゴーストポケモンと聞いて目を輝かせたように見えた。
「それは興味深いな! ぜひとも詳しく聞かせてくれ」
まるで水を得たシャワーズのように思った。

 ゴーストポケモンの専門教授、エテルノ=アークライトは、
彼らの存在の有無すら一筋縄にいかない謎を解明するため、
様々な情報を求めている。
彼の実地研究・観察は、新種の発見や、
地面やエスパーの技は弱点ではないことの解明を進めたのだ。

 教授席の椅子を回しながら立ちあがり、
書きかけの書類を放ったまま、
フィールドワーク用のバッグを手に取った。
「案内を頼んでもいいかな。もちろん詳しく聞きながらだ」

 トラックの助手席は初めての乗り心地だった。
普段よりも高い目線で、遠くまで見える。
ランプラーが白昼から街灯の上に集まる姿を見つけて、
すぐにメモ帳に書き加えた。

 道中で聞いた詳しい話から要点を取り出した。
ソフタの話は長かったのだ。
おそらくゴーストポケモンの仕業だ。
電気を使うのでロトムが有力と見ている。
しかしロトムが好むような機械があるのは別の場所だ。
A4サイズのメモ帳がどんどんと埋まってゆく。

「ゴーストタイプは、草や電気と仲が良くてね。
ほとんどが草タイプか電気タイプも扱える。
両方を使えることも多い」
これは専門外のソフタにとっては驚きの新事実だ。

「そういうわけで、ロトム以外の線も充分にあるなぁ。
一体どんなポケモンなんだろう!」
まだポケモンと決まっていないのに、
すでにはしゃいでいる。
「電気はともかく、ゴーストと草って全然仲良くなさそうですけど、
どういうことなのか既に分かってるのですか?」
平静に戻すよい質問だ。
まだ完全な答ではない前置きをして、
「今の答えは、オバケが存在できるほどの生命力に溢れるのが草、って所だね」

「へぇー、おっと。
あそこの2番目の建物です」
記録用紙をしまい、トラックが止まり、
倉庫へと向かった。
潮風のおかげか出発前よりも涼しく感じた。

 裏口の扉を開けた。不健康な音が奥歯を揺らす。
扉が閉まる前にレバーをあげて照明をつけた。
一面にラックが規則的に並び、
そのほとんどには段ボール箱が収められていた。

「どこだい? 出ておいで!」
早速エテルノが声をかける。
出てくる様子がないので、
2人で奥に進みながら段ボール箱を揺すっていく。
ひとつの強い気配にエテルノが向き直った途端、
物陰からぬいぐるみが飛び出してきた。

 ジュペッタが現れた。
同時に照明が割れ、そして足元からも弾けたような音が聞こえた。

ジュペッタの10万ボルトか、なるほどね」
ソフタは慌てていたが、動じないエテルノを見て、
少しだけ安心した。

「だいぶ警戒されてるみたいだ。頼むよ!」
エテルノが繰り出したシャンデラの炎であたりを照らした。
見つけたジュペッタが立ち塞がる後ろには、
むき出しの時計やぬいぐるみが置かれていた。

テレキネシスを頼むよ!」
シャンデラの炎が激しく揺らめくと同時に、ジュペッタの身体が持ち上がった。

「よしよし、そのままこっちへ」
エテルノの手まで運び、触れた。
抵抗が弱まり、ジュペッタは次第に警戒も解いていった。

「寂しかったみたいだね」
優しく抱えて背中を撫でる。

「そんなにあっさり大人しくなるなんて、
私だけだと出てくることもなかったのに」

「この子は特性が"おみとおし"みたいだね。
俺が持ってきた道具の中に気になるものがあったのかもな」
観察して様子の話をしながら、
背中を撫で続けていた。

 2人と2匹はエテルノの指示のもと、
並べていた時計やぬいぐるみをまとめて持ち出した。
持ってきたバッグが、帰りは3倍になっていた。

「この後はどうするのでしょう。
野に返したりですか?」

「この子にも主人がいるはずだよ。いろんな技を教えたトレーナーがね」

懐でジュペッタが強張る様子を感じた。
「尤も」
腕を緩めて目を合わせる。

「帰る日が来るまで、俺の部屋においで」

跳ねる勢いで顔に飛びついた。

 

今回のジュペッタ
性格:むじゃき
特性:おみとおし
覚えている技
10まんボルト
こごえるかぜ
はたきおとす
まもる

『美女とモルディギアン』

 行列を尻目に関係者口を通った。
森下結衣は控え室へと向かう。
胸を張って、道の真ん中を堂々と。
駆け出しだろうと、心は一流のベテランのつもりでやれ。
先生の教えをよく守っている。

 ノックして扉を開けた。
空いた椅子が多く、荷物もない。
演者らしき者は2人だけ見えた。
その片方、金髪と浅黒い肌のヤンキー風の男が向かってきた。
「はじめまして、僕はテップ内藤! 趣味はしりとりだよ。
こっちはアール白鳥、コンビさ」

よくわからない人だな、と表情に出ないよう気をつけた。
「はじめまして、森下結衣です。
今日はよろしくおねがいします」
ぎこちなくなってしまったような気がする。
軽い口ぶりのおかげで、
怖そうな印象は口を開いてすぐに覆ったものの、
心の片隅にまだ不信感は残っていた。

「他の方にも挨拶したいのですが、どちらに?」
「ああ、控え室が手狭になるからって、
時間差で入ってくるそうだよ。
僕たちの出番の頃には3番手が来るかな」

「そろそろ出る時間だ。僕は行くよ」
テップ内藤は黄金に輝く横笛を剥き出しで右手に、
アール白鳥の手を左手に持ち、
扉を抜けて舞台へと向かった。

 いよいよ森下結衣の出番がきた。
舞台に上がるとつい1分前までの緊張が嘘のように、予定していたとおりに歌い踊る。
観客席から送られる歓声が舞台まで揺るがす。

 大地からも歓声が聞こえるようだ。
壁が揺らぎ、天井が軋む。

 床に印された紋様が輝きはじめた。
舞台を中心に、観客席の端まで広がった。
席番号の案内文字を照らして浮かべた。

 誰かが異変に気付いた様子を察知した。
しかし森下結衣は止まらない。
ひとつの目的のために歌い踊る。

 歓声はやがて悲鳴に塗り替えられていった。
顔が充血して赤く膨らみ、やがて血が絞り出された。
鼻から、目から、そして毛穴から。
そう、この演目は旧支配者の復活のために魂を捧げる儀式だったのだ。
 朧げに見える姿は、倒れ臥す人が増えゆくほどに輪郭がはっきりしていた。

ある者は肥大化した山蛭だと言った。
ある者は形のある竜巻だと言った。
ある者は絞り雑巾の妖怪・白うねりだと言った。
 かの神こそが森下結衣の信仰するモルディギアンだ。
森下結衣は研究した儀式を執り行った。
そしてその成果が目の前に顕現した。
モルディギアンを前に、
目を開けているものはいない。
誰一人として逃げ出しはしない。
足がすくんでいるのではない。

「あっはははは!
面白いことをしてくれたね!」
血まみれで倒れたテップ内藤の声が、
しかしどこか歪んで聞こえてくる。

「実は相方のアール白鳥を見に家族も来てたそうだよ。
君にとっては銀行で話をしてた人ね。
頭取を失っては大混乱だね」

挑発的な軽口を受けても、森下結衣は気に留めなかった。
モルディギアン復活の目的は果たしたのだ。

「なかなか見所があるね。
お手伝いをしよう。ここを直した方がいいよ」

テップ内藤の鉤爪が魔法陣を削り、描き足していく。

「君は本当にすごいよ。
たった1人で成し遂げちゃうんだから。
いいものを見せてもらったよ」

テップ内藤は身体を溶かし、アール白鳥と混ざり合い、
悍ましい笑い声を降らせながら、
黒く蒸発するように空へと昇っていった。

残された大量の死体は、
モルディギアンへの最初の供物となった。