にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『続 働かざるもの食うべからず』

『続 働かざるもの食うべからず』

前回
http://tamanegionion.hatenablog.jp/entry/2018/08/03/135836

 ムカデ人間の社長・月宮巳甘は歩きながら物思いに耽っていた。
社員を取り巻く状況はすでに順調で、
ここからさらに上を目指すには。
散歩コースからひとつ隣の道に、
傷んだ建物を見た。

つる植物が活発に窓を覆っている。
いいことを思いついた。


 街角にある小さなアパートに向かった。
「やあ、元気かな」
巳甘の特徴的な多数の腕を使い、
窓から入り、太ったおじいさんに跨った。
押しつける肉体の感覚に、じじいの全身は固く強張っていった。
「君は熱心なクレームを多方面に送っているそうだね。
家電業界を狙っているみたいだけど、
何か恨みでもあるのかな?」
返事を1秒だけ待った。飽きてしまった。
「まあどっちでもいいや。いただきます」

巳甘は前回の反省を踏まえて、
最初に声帯を切ることにした。
後ろの腕で済ませると、やはり足から食べ始めた。
ジジイは腕で床を、太ももを叩こうとするが、
巳甘はムカデ人間なので、抑える腕は十分だった。

 そのまま腕を、そして臓物を食べ、
頭まで食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
食事の後片付けも楽に済んだので、
窓から外に出た。
家のことを思い、家主に代わって鍵も閉めた。

 取引の相手となる企業では従業員の健康状態がよくなっていた。
気持ちよく新たな顧客を獲得し、
無事に業績の右肩を上げた。
鳴かず飛ばずだった事業を一転させた敏腕社長と有名になり、社員たちも鼻が高い。
高給かつ負担の小さな職場との評判も広まり、
大量の社員たちが交代で休暇を取る、
理想的なサイクルを形成していった。

「おやつの時間だよー!」
新社長がケーキの箱を持ってはしゃぎながら現れた。
もちろん社員の全員分、
各人の嗜好に合わせて乳製品や植物性のものばかりだ。
アレルギー対策に容れ物を別け、細かな配慮を徹底している。

いいムカデ人間が活躍するいい時代に産まれたことを、
誰もが誇り、受け継いで行こうと決めた。