にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『ゴゴゴゴンベエ』4話 (4/4) 完

『ゴゴゴゴンベエ』4話 (4/4) 

 教室は噂で溢れていた。
ゴンベエが着く頃には、すでに結論が囁かれていた。
「机が増えてるってことは転校生じゃないかな」
「他の教室には特になかったし」

 噂はその通り、朝一番での話は転校生の紹介となった。
夏休みの直前に、残る大掃除と終業式の前に、
交流の場が差し込まれた。
クラスの全員で、すでに空っぽの机を軽々と並べ替えた。

 𩿗瀬テンコと名乗った。
肩をくすぐる髪の先が濡れてまとまり、
Tシャツに小さく水玉模様を描いている。
背の高さもあり活発な印象を振りまいた。

「ちょうど夏休み直前なので、
馴染むついでに掃除や片付けを手伝ってもらおう」

 昼休みはいつもと同じく、ゴンベエとヒロシがデュエマをしていた。
ゴンベエの通う小学校では、
電子機器でなければゲームも持ってきてもよいとされている。
普段と変わらないと思ったそこに、
次のゲームの前、新しい風が吹き込んだ。

「ねえこれ、タカラトミーから発売されて、
少し前に売り上げ日本一を記録したデュエル・マスターズTCGでしょ」
テンコが現れ、声をかけたのだ。

「君もデュエマをするのかい?」

「持ってるのは古めのが多いけど、
今も新しいカードの確認はしてるよ」

ゴンベエは新しい友達が増えた気配を感じた。

「それじゃあ明日持ってきて、やろう!」
「そうする。今日は見学していい?」
「もちろん!」

この日のテンコは、どこか物珍しそうに見ていた。

「デュエマ・スタート!」
「よろしくおねがいします」
ゴンベエの一言に少し遅れて、
「よろしくおねがいします。チャージしておわり」
「ドローしてマナチャージ。
《ブレイズクロー》を召喚して、ターン終了」

お互い静かな立ち上がりを見せあう。
ゴンベエはマナゾーンに見えた見知らぬカードを確認していた。
古めのカードで、お店のショーウィンドウでも見たことのないものだ。

「チャージして、《巨大設計図》。
4枚のうち当たりは3枚」
文化圏が違うと細かい言い回しや、注目点が異なる。
ゴンベエはこの違いを見るのも楽しみにしていた。

「ドローしてマナチャージ。んーとそうだな‥‥」
ゴンベエは手札と相手の行動を見て、
少しだけ悩んだ。
その結論は"知らないデッキを深読みしても仕方ないから、遅そうな見た目に合わせて攻撃する"だ。
「《轟車"G-突"》を召喚して、《ブレイズクロー》で攻撃」

「トリガーは無し」
「よかった、これでターン終了」

ゴンベエの繰り出す《"G-突"》の能力は、
テンコの常識をはるかに超えていた。
しかし構築の都合で、次にやることは変えられない。
「チャージして《ファビュラ・スネイル》」

ご存知の方も多いだろう、
2018年6月23日に発売されたデュエル・マスターズTCG拡張パック双極編2弾『逆襲のギャラクシー卍・獄・殺!』に収録されたいぶし銀のカードだ。
クリーチャーと呪文のふたつの顔を持ち、
序盤を支えるコスト軽減クリーチャーと、
小型を一掃するシールドトリガー呪文だ。
呪文側のコストが9なので《巨大設計図》との相性も良く、
見た目以上の性能を発揮する。

「ドローしてマナチャージ。
《ドリルスコール》と《G-突》を出して、手札1枚。
《"轟轟轟"ブランド》をコストなしで召喚!」

テンコは新しいカードを確認してはいたものの、
実際に使うところを見るのはゴンベエのものが初めてだ。

「追加能力は、やっておこう《ファビュラス》を破壊する」
マナと軽減クリーチャーを失い大ピンチとなった。

「すっごいねぇ、これが《轟轟轟》か」
「ありがと、すごいでしょ!
《G-突》とその次に《轟轟轟》で攻撃で、
何もなければ僕の勝ちだよ」

攻撃を受けて確認する。
最初の2枚にシールドトリガーは‥‥無し。

「最後のシールドは‥‥やった、《ホーリー》!
危なかったぁ、全部をタップね」

「くぅ、止められた!
あとは次のターンがくるかどうか勝負、かな」

「そうだねぇ、ドロー。
おっこれは‥‥」
テンコはおもむろに手札とマナを数える。
一通り数え終えると意を決して、カードに指をかけた。

「《超七極 Gio》を、
手札のコスト9のカードを8枚見せて1マナで召喚するよ!」

「そして攻撃時に《極まる侵略G.O.D.》を乗せる!
コスト9のクリーチャーを9体出すよ!」

ゴンベエの知らないカードが一気に並ぶ。
統率のとれた編隊は、何を思って集められたのかがはっきりしていた。

《一極 マウチュ》《二極 シヴァイーヌ》《三極 デュエナース》
《四極 キジトロン》《五極 ギャツビー》《六極 サルーエル》
《八極 ハリルヤ》《九極 デュエンジェル》
そして《超九極 チュートピア》が立ちはだかった。

遊園地を彩るマスコットじみて頭の大きい
牧歌的な見た目とは裏腹に、
秘めたる戦闘力は桁違いだ。

「すっごいなぁ!」
ゴンベエは初めて見るカードを1枚ずつ確認していく。
ブロッカーが6体。
何度もブロックできる。
呪文を唱えられない。
破壊から守る。
手札以外からはクリーチャーを新たに出せない。

攻撃を受けて、シールドを確認していく。
「最後のシールドから《爆殺!覇悪怒楽苦》が来たけど、
誰も倒せないし、山札から出すのもできないや。
あーその前に、今は唱えられないんだった」

「このターンの攻撃はここまでだから、
次に引く1枚次第ではどうかな」

「そうだね。ドローして、」

ゴンベエは手札を伏せて置いた。
「ありません。ありがとうございました」
「ありがとうございました」

感想戦を始めようとしたその時、
昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る。
「もうそんな時間!」
「ゴンベエくん結構悩んでたもんね。
それにお互いカードをよく確認してたし」

2人は笑いあった。
やがて近くにいた友人たちも、
呼びに来たはずが話の輪に入り、
後にクラスの3分の1が遅刻の大目玉を貰うことになる。

「またやろうね!」
「もちろん!」

 

ゴゴゴゴンベエ -轟轟轟のある日々- 全4話