にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

カビキラーキラー

『カビキラーキラー』

 クロカビ次郎は考えていた。
同胞を殺すための兵器、カビキラーによって
数多くの仲間が失われていった。
チャノマ・グラウンドから極地まで、カビ一族による世界征服を邪魔立てする敵を制圧する。
やがては実現する目標のため、あらゆる手段を探っている。

 アオカビ三十六太夫の元に知らせが届いた。
名前よりも短い本文に目を通し、すぐに約束の地へと向かう。
「アカカビ四五型 aka "思考する真菌(シンキング・シンキン)"より。
材料すべて確保した」
秘密の研究室に続く小道を初めて抜けた。

 クロカビ次郎は完成させた。
アカカビ四五型の研究室を借り、
アオカビ三十六太夫の知恵を借り、
交友を広げて集めた材料を混ぜ合わせた。
五度の冬眠を挟んだ実験の末に、
最後のピースとなったのは宿敵カビキラーだった。
カビ一族の常識の外、姿も文化も異なる敵を分析し、
生物学を超えて取り入れ、カビを超えたカビとして再構築したのだ。
敵と言えども敬意を表し、カビキラーキラーと名付けた。
手始めにチャノマ・グラウンドを制圧しよう。

 異文化の塊、空調装置が冷風を送る。
日々を快適にする方法が、
同時にカビキラーキラーが滑空する助けにもなった。
従来のカビでは為し得なかった高速・空中戦で、
チャノマ・グラウンドは胡座から一転、櫓を構えて応戦する。
しかし無防備な瞬間の奇襲、それも新兵器のお披露目とあっては、
いかに優れた技術も出せなければ意味がない。
薬剤攻撃を受けてもカビキラーキラーには効き目がなく、
さらに黒色大型昆虫へ誘導すれば更なるパニックと化した。
薬剤がだめなら物理と考えたのだろう、
灰色の剣が振るわれる。
甘んじて受け止めよう。
その触れた場所からますます広がってゆくのだ。

 ことごとく裏目に出る行動にも助けられ、
チャノマ・グラウンドのひとつを制圧した。
後方から歓喜の声が届く。
しかしこの瞬間こそが最も警戒すべきなのだ。
情報が広まれば対策を打たれるのは時間の問題、
つまり平静を装う必要があるのだ。
クロカビ次郎の戦略通り、第1段階を突破したので、
長らくの時を超えて第2段階を始める時が来た。
顔も知らない先祖の遺物、ノットリオンHMWを投与する。
哺乳網の身体をカビ一族が支配するのだ。
古の先祖たちはこれほどの技術を持ちながら、
活用に至るまでを完成させることが叶わなかった。
最高の瞬間を待ち続けていたそれがいよいよ日の目を見て、
新時代の到来を実感してゆく。

クロカビ次郎は人知れず、先祖への祈りを捧げるのだった。