にんにくガーリック

元気に小説を書きます。金曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

百合『スマート・ペアリング』


登場人物紹介
亀有 枢子 (かめあり・すうこ)
ゆったりした服装を好む。
喧嘩になっても近くに来ると空気が和らぐ、
俗に言うムード・メイカ
休日はよく土地巡り(さんぽ)をする。
IQは127

有川 墨芽 (ありかわ・すみめ)
ビシッと決めた服装を好む。
パンツスーツやタイトスカートが似合う、
俗に言うバリキャリ・オフィスレイディ
休日は漫画を描いたり読んだりする。
IQは127

百合『スマート・ペアリング』

 大都会から少し離れるだけで、喫茶店は硬
いスーツのビジネストークから、親子や中高
生の談笑に変わる。街ゆく人の歩調や表情は
穏やかになり、人々が留まる場所も増える。
 スマートな二人の女性が出会った。その一
人はボタンのないゆったりした服装をし、も
う一人はボタンを上下まで留めてスリムな服
装をしていた。
 二人が出会ったのは全くの偶然であった。
同じ日に同じ店で居合わせ、席数の都合に合
わせられる同士なため、同席した。
 会話なく対面しては気まずいと思う人もい
る。目の前に座った女性はどちらだろう。早
いのは本人に訊ねることだ。
 同時に声をかけ、同じ内容を順番に言い合
った。
服装こそ対照的であるが、その行動はよく似
ていた。興味の対象には妥協のない熱意を注
ぎ、興味のない流行は軽めに乗って新たな知
見の源とする。
 スマートな振る舞いはよく知る者にはもち
ろん、インターネットの先にも数多くのファ
ンを作っていた。それぞれの熱意と能力が織
りなす成果物たちは一定の評価を得ていた。
 ちなみに実の所、筆者はスマートなのだ。

 お互い確認しあい、そのうちに気づいたこ
とがあった。知能が近かったのだ。
 一説には、知能の差が十を超えると、高い
側から見て話が合わない、とされる。
 逆に知能の差が近いほど、話が弾みやすく
なるという説もある。
 この二人にとって、知能が近い人は希少な
ものであった。二つの説は聞いたことがある
だけで、真偽については知らなかった。それ
らはおそらく正しいものと感じた。
 ちなみに筆者の知能はというと、指数にし
て百二十九である。大都会病院で検査した。

 知り合って四半年ほど過ぎた日のことだ。
 枢子は珍しくトラブルにより帰りが遅くな
った。
午後8時、普段なら歯磨きを済ませお風呂に
入る頃だ。
このまま電車に揺られて帰れば睡眠不足や、
ストレスにより動けない日々になってしま
う。
 最悪を脱するため、電車ではなくホテルへ
向かった。下調べをしていないため、その場
で調べながら、歩いていた。
 そんな中、偶然にも墨芽と出会った。
 まあ実のところ、偶然だと思っているのは
枢子だけなのだが。

 案内された部屋は予想外に豪華だった。入
る前に一泊の料金を確認できたため、建物を
間違えた気もした。墨芽によるとこれでいいらしい。
 枢子は密かに憧れていた、帳のあるベッド
を見て気分が昂揚していた。歯を磨きお風呂
に入った。自宅より広い湯船も始めてで、こ
こに一人でいると不思議な孤独感を覚えた。
 ノックの音が聞こえた。予想外のことだ。
「一緒に入っていいかな?」
返事の前に尻餅をつく音を届けた。幸いにも
頭は打たなかったので、すぐに返事をした。
「どうぞ、ちょうど寂しかった所です」
静かに二人目が入った。思い返すと、他の誰
かと湯船を共にするのは小学生の頃の母親が
最後だった。
 豪快な音と共に湯船の縁を超えた水が溢れ
出した。二人になると、広かった浴場が今度
はやや手狭に感じた。

 湯上りに重要なことを思い出した。着替え
を持ってきていなかったのだ。髪を乾かして
から考えようと思ったが、その視界に答えが
あった。バスローブが用意されていたのだ。
 袖を通し、辿々しい手つきで帯を締めた。
「よくがんばりました」
 先に済ませていた墨芽が、浴場の近くまで
椅子を運び、出迎えるために待っていた。
「お待たせしました」

 褥は特別な触感に感じた。自宅とは違う、
暑く湿ったような雰囲気もあった。
 その広々とした正方形は、二人で使っても
なお広いままだった。
 寝るときの明るさで一悶着があった。常夜
灯の有無だ。枢子は完全に暗い部屋を望み、
墨芽は常夜灯の落ち着いた明かりを望んだ。
試しに常夜灯をさらに弱くしてみたが、すぐ
にお互い共に不満足になるだけとわかった。
 決着が必要になった。

 帳越しに見える、蛇のような細長い影が倒
木を這い回った。

 帳越しに見える、起き上がった上体が八本
の脚を伸ばし深淵を覗いた。

 帳越しに見える、翼を伸ばし俯いた影がご
機嫌に揺れた。

 帳越しに聞こえる、二人分の寝息が、弱い
常夜灯と共にあった。