にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

デュエマ小説『読切学園の1日』


 教師が授業の終わりを告げる。無人だった廊下がどっと賑やかになる。
赤星 読桐子は目当ての人を探してラウンジへと向かい、思った通りそこに見つけた。
エナメルバッグを台にして小さな本を読む、その正面に荷物を起きながら話しかけた。

「黄泉霧先輩、デュエマをしよう!」
返事を待たずにトートバッグに手を入れ、薄い箱を取り出す。
普段から持ち歩く、デッキケースだ。


「読桐子さんか。いいよ、やろう。バスの時間があるから1回だけね」
黄泉霧は佇まいをますます爽やかに見せてデッキケースを取り出した。
まるで閉じた本をバッグに浸すと箱に変化したようだ。
読桐子はこの手捌きを見ただけで、すでに顔が綻んでいた。

 黄泉霧はたびたび手品師のようだと言われるもので、
イカサマをしていないと明らかにするため、
確実にカードの束が動いていると見えるようにシャッフルする。
誰にも順番がわからなくなり、並び方が近いか遠いかも予想できない無作為な40枚を、
お互いに慣れた手つきでテーブルに並べる。

そう、これが株式会社タカラトミーより発売され、
小学館コロコロコミック』でも大人気の漫画を原作とするテーブルゲームデュエル・マスターズTCG』だ。
日曜の朝にポケモンの直後・仮面ライダーの前時間に放送するアニメにて、天真爛漫な主人公が幅広い世代の人気を集めている。
放送後にインターネット公開されて振り返りやすいのも受け皿の広さを実感させる。
天使やドラゴンが活躍するファンタジー舞台の登場人物が描かれたカードを集め、
2人のプレイヤーがルールに則ってカードを出しながら、
その組み合わせで起こるドラマを楽しむ。
さながらイマジナリー・プロレスだ。

お互い準備が整ったと確認し、ゲーム開始の挨拶をする。
「よろしくお願いします。デュエマ・スタート!」

 音のない鐘が鳴る。龍の剣士が歩み寄る。
輝く稲妻に守られた宮殿にて、
何の因果か赤い龍との抗争が始まった。

 宝石商の少年が宮殿へと向かう。
宮殿の主人は持ち込まれたうちの2つを手にした。
その様子を見ていた、燃え盛る妖精と目が合った。
異変を察知して、あるいは予感して、稲妻が照らし出す。
そこでは龍の剣士が悪路の確保をしていた。
「邪魔者はないぜ、旦那!」

 宮殿では暴龍への対処に迫られていた。
彼らはよく知っている。
暴れ始めればすぐに、この小ぶりな宮殿では塵も残らぬ廃墟になってしまうだろう。
龍の秘術士が誰よりも早く腰を上げた。
その頭上から上空には召集を意味する印が煌めいた。
その歩みと同時に、漂う魔術の残滓が再び形を持ち、
秘術士の元に整列した。

 怒れる龍が大将の道を作る。
参謀として数々の大将を導いて、英雄と呼ばれていた。
2本の大剣を構え、大将が飛びかかる。
一閃。秘術士の横を掠め、轟音と共に壁が崩れる。
二の太刀。逃げ切れないとわかり決起する姿が見える。

 構えていた大剣が唸りをあげる。
暴動を求める龍の魂が熱を持ち、形を成し、
やがて実体のある巨躯を振るった。
その咆哮は次元を超えて轟く。
その吶喊は次元を切り裂いて進む。
どこからとも知れず、煌めく龍が現れ、
先の巨躯に続いた。

 度を超えて強い、強い光が照らし出す。
壁のひとつに込められた、非常用の緊急魔術が起動したのだ。
暴龍が怯んだその一瞬のうちに、
秘術士を導に、庇うように法皇が出る。
受け取った魔術を指のひとつで、音もなく再起動し、
天空の印が再び強く煌めいた。
龍の魔術師を召集する術だが、
法皇が呼んだのは閃光の管理者、
一瞥だけで跪かせる機械龍に巨躯を任せた。
法皇の力は戦場の分離を司る。
雑兵によって混戦に持ち込まれないよう、
時の流れごと侵攻を止めるのだ。

 一頭だけ、立ち上がる龍がいた。
大将の左手に構えていた剣だ。
参謀に庇われ退く主の手から離れ、
ただひとり閃光から身を守っていた。
銀河二連斬。
機械龍を貫き、そのまま宮殿へと飛び込んだ。


「対戦ありがとうございました。見事な連続攻撃でしたね」
「対戦ありがとうございました。スパークが遅かったおかげで助かりました。
早めに終わったので、もう一回できませんか?」
黄泉霧は時計を確認して、小さく息を吐く。
「ごめんよ、今日は遅れられないんだ。
また明日、やろう」
言い切る頃にはすでに荷物がまとめられていた。