にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『ヤドカリプス 地球最大の生命』

『ヤドカリプス 地球最大の生命』

 宿を借りるからヤドカリなど過去のもの。
今では平野(ヤード)を駆るからヤドカリだ。

 ロケット・エンジン点火!
現代ヤドカリの間では速さと技術を競う、
P1グランプリが定着している。
整備されたサーキットを3周する時間を競うようになったのはつい2年前のことだ。
開会に先んじてその経緯について話をしよう。

 かつてヤドカリは海岸や市街地の区別もなく、
好き勝手に走り回っていた。
街の外周をひと回りしたり、
海岸から東京タワーで折り返してまた海岸に戻ったり、
時には南北アメリカ大陸を縦断することもあった。
ブラウン管ヤドカリから伝わり、大陸の銃横断が流行していたのだ。

 そんな先祖ヤドカリに、転機は突然やってきた。
一匹の若いヤドカリがロケットエンジンで飛んでいると、
ついうっかり、配備中の核ミサイルに激突した。
核の炎によって前触れもなく一帯は大混乱に陥り、
遠く離れたヤドカリも、人間の動向から異変を察知したのだ。
ヤドカリの身では知る由もない理由で、核の炎は様々な地域のヤドカリにも降り注ぐ。
そして地球は核に耐えうる存在、すなわちヤドカリが支配する惑星になったのだ。

 それからというもの、ヤドカリの発展は目覚ましく、
原子炉ヤドカリと建機ヤドカリの協力でさらなる巨大ヤドカリの住まう準備を整え、
渡り歩く食卓ヤドカリの世話になりながら、
競技場ヤドカリの背で鍛錬に勤しむ文化が形成されていった。

社ヤドカリにお参りをする姿は高齢ヤドカリが多く、
屋上ヤドカリの背は若者に人気のデートスポットだ。
「今夜は月が多いね」とはお決まりの落とし文句として広まり、
その扱いには魅力が滲み出る。

 このあたりでそろそろ、皆様のロケット・エンジンも温まってきた頃でしょう。
実況ヤドカリの一声と同時に、
レースクイーン・ヤドカリがシグナルを掲げる。
大きな音をたてながら点灯していき、最後のひとつが灯ると同時に、
レーサー・ヤドカリたちが駆け出した。