にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

強風で傘が曲がった

 雨が振っていても、今日はこれから出かけるのだ。
犬の模様が描かれた傘を抱え、家から飛び出す。
高級品とは言えないものの、
3年以上も、私を雨から守ってくれたお気に入りの傘だ。

 その傘にとって危険なのは、
叩き鳴らす雨ではなく、押し揺らす風。
風に対して垂直に、8本の骨で受け止める。
風が向きを変えると、すぐに傘を構え直す。

軋む音をかき消すほどの風の音が、
傘に向ける老婆心をより老けさせた。
この身は決して重いとは言えない軟弱者だと、
強風に文字通り強く味わわされる。

目の前に待つ分かれ道を今日は右に曲がる。
左には高いビルに挟まれた道、
傘への風はいくらか和らぐだろう。

 陸橋を渡り、目的の家も間近な所で、
風も落ち着きを取り戻していた。
気を休めて歩みを進める。
それこそが最大の危険とも知らずに。

 最後の突風が吹き付け、無防備な傘が一身に受ける。
これまで風に耐え続けてきた傘を再び見ると、
無残にも骨のひとつが深々と、
私の胸を突き刺し、あらぬ所を隆起させ、
曲がり折れてしまった。

 たったひとつの傷が、無傷だった全身を貶める。
1本の傘との思い出を振り返り、
出会う直前を思い出す。
またその時に戻っただけなのだ。
言い聞かせて涙を惜しみ、
出会いの契りを別れで遂げるのだった。