にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

昨今の流行、勇者の言葉に対する魔王の答え

 

 底の見えない断崖を背負い、
魔王の居城が歓迎する。

扉をくぐると目の前には一面の階段、
そしてその先から声が届く。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件かな」

穏やかな歓迎に対し、
「いよいよこの時が来たな、魔王!」
勇者の言葉が天井高くまで響く。

「お前が何人から尊い命を奪ったか、覚えているか」
広い階段の先、魔王の座へ攻め込む隙を探す。

魔王は膝に手をかけて立ち上がり、
「もしかしたら、貴様を1人目にするやもしれんな」
勇者を見据えて鋭く言い放った。

「今までは何事もなかったと言うのか」
勇者の怒号に対する魔王の返事は、
「思い出話でもしようか」
窘めるよう柔らかに返す。

魔王は座っていた椅子の肘掛けに体重を預け、
静かに語り始める。
「5年前の盆のことだ。
困る人を見つけたら助ける人間が、不当に虐げられる姿を見かけたので、
彼女と同じように、助けることにした。
安全のため、再び彼女を付け狙う意味ごと除いた。
老朽化により危険な室外機を爆破したのだ。
同居する継父は後始末に追われ、
彼女への最後の暴力として家を追い出した。
その後の適切な処置は人間に任せた。わざわざ恩を売る理由はない。
しかし翌年の盆に知った。
人間たちは彼女を投げ出し、殺したのだ」

魔王は息を噛みしめる。
「当然、彼女の行いを知るものは助けるべきだと言ったそうだ。
しかしそのすべてが暴力でかき消されたのだ」

勇者の鼓動が早まる音は、魔王の耳まで届く。
「その後はすぐに、あまりに不思議なのでひとつ試すことにした。
偶然に見かけた1人の男、
彼へと一方的な不利益を与え続ける人間との関係を除いたのだ。
一時的に空白の時間はあるものの、
彼の能力を持ってすれば容易に次が手に入る。
そして彼は自らの能力をよく知っていた。
しかし問題は彼の周囲の者たち。
自身の不利益を顧みず、彼に不利益を与えたいと願っていた」

「そして、各々の生活を犠牲に、彼を殺した」


「その2人のあまりに無念な死を悼んで、奉仕活動を始めた。
そして非合理的な者どもから人間を守る」

魔王の言葉を聞き終えた勇者は深くひと呼吸を置き、
「御託は済んだか?」
剣を構え、詰め寄る構えを見せる。
魔王の目には、全身で昂る血流もよく見えた。

「やはり、そうだろうな。人間の勇者よ」
魔王の一声と共に空間が軋み、光が歪む。

 別の部屋では魔王の配下が、献花の準備を整えていた。