片側が外れたウェスタンドアの先に、
酒盛りをする集団と離れて、歌人がひとり竪琴を構える。
月光に照らされた特等席が、特別な存在と醸し出す。
歌人は新たな来客を認めると、着席を待って口を開いた。
はるかな昔、はるかに遠く、翳り輝く異国の地。
ある男の話をしよう。
彼は友人の実験に協力するだけのつもりだった。
強力な武器の研究と聞き、好奇心はもとより、
得られる結果は彼自身にも都合のいい。
当時の彼は世界の統治を目論んでいたのだ。
しかしある時、彼の目的とは相反すると気づいた。
統治するべき世界を材料とした生物兵器、
衰退へ向かう発展。
離反を決意する時には、すでに彼の愛娘は人質に取られていた。
生物兵器を作る研究施設、
彼は作品の一部を脱走させ、
反逆するように仕向けた。
幸いにも活動しやすい人間型、しかも理性を持って自律する。
もちろん多くは逃げきれず、またはたどり着けず、
遊撃部隊により処分されていく。
そんな中、ついに本拠地まで乗り込まれる日が来た。
幸運な一体が、有能な後援者に拾われたのだ。
このチャンスを活かすべく、
彼も障壁を操作し侵攻を助けていく。
そして主は貴重な成功作ばかりか施設の一部まで破壊され怒り狂い、
ひとつの檻を解放した。
定点カメラから見えた、変わり果てた彼の愛娘。
本来の腕がなく、余った神経を使う左右5本ずつの機械の腕。
傘の骨のように細い節だが、馬力も耐久性も革新的。
幸か不幸か、おそらく不幸にも、
彼自身の設計だからよく知っている。
愛娘の命のためと協力していたのが、
もう抑えるものはない。
2人の間に割って入り止め、共に反旗を翻す。
幸いにも深い記憶は残っていたようで、
彼の言うことは優先して聞いてくれる。
それ以上には何も覚えていなくとも、残っていただけで拾い物。
そして3人は研究所の主と相対した。
今日のお話はここまで。
続きは聞かせてもらえなかったんだ。
言いたくない事情があるのか、
言えないような理由があるのか、
どれも含めて闇の中。
僕の予想もあるけれど、人に聞かせるものじゃない。
それじゃあ、またね。
停電と同時に、月光を何かが遮る。
暗闇は心臓が早く4度の音を立てると、
窓から、そして照明からも溶けてゆく。
目の前にある空席と、まだ揺れるウェスタンドアが、
その間の出来事を物語った。