にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

【二次創作】超次元温泉ガロウズ堂 2018年の商い

 超次元温泉ガロウズ堂。
かつてパンドラスペースと呼ばれた地を改造し、
広大な慰安観光施設へと作り変えたという。
中でもVIP専用施設、殿堂の間は、
時と次元を超えてあらゆる風景を一望できる露天風呂を構える、
絶景ポイントとして噂が流れていた。


 咲き誇る枝垂れ桜を一人眺める麗人。
殿堂入りが決まった、ヘブンズロージアその人だ。

「おはよう、待たせたな」
赤の龍が話しかける。

ロージアは脚を摺って向きなおり、
「どなた?」
警戒をもって答えた。

「ああ、そういえば龍の姿は見せてなかったな」
龍はその身を畳み、一振りの刃となる。
ロージアと会う時はいつも、この姿だったのだ。
「バトライ刃だ。改めておはよう」
「ああ、バトさん。これは失礼」

「ガロウズ堂の前に寄る場所はあるか?」
「いえ、すぐに行きましょう」
2人は足並みを揃えて歩き出した。

 通常の入り口から離れた、殿堂の間。
そこへ向かう廊下には、柱のひとつひとつに歴史が刻まれ、
自身もそこに名を連ねるのだと実感する。

バトライは大理石の床に気づくと爪と熱気を収め、
ロージアは本の外では初めて見る丹塗りへと興味を滲ませる。

長い廊下を越えた先、第2の入り口で温泉の主人、ガロウズ大将が自ら出迎える。

「お待ちしておりました 殿堂入りおめでとうございます」

「お世話になります。
ガロウズさんも殿堂入りおめでとうございます。
なにやら仕事中といった雰囲気ですけれど」

「ありがとうございます これについては温泉の主たるもの 彼らだけにやらせて休むわけにはいきませぬ」
視線を向ける先から、3人分の浴衣を持つ従業員が歩み寄る。

「店長も今日はお客様デスマス
「え? しかし」
「小粋な計画を聞く間もないほどの激務でゴワスドン」


バトライは手を肩に乗せ
「ああ言ってるんだ、任せても大丈夫じゃないか?」

それでもまだ決心の定まらないガロウズの背中に、
「それにそんなんじゃあ、次の肖像画は題名が『激業務! オンセン・ガロウズ』になっちまうぞ」

浴衣をガロウズが受け取り、
「それは困りますね お客様に遠慮をさせてしまう」
「決まりデスマスね」
ガロウズは初めて、目の奥が熱い感覚を味わう。
「それではお客様がた、温泉へ案内いたしますゴワスドン」
3人とも何も言わず、ガロウズを、そして従業員を見守った。

 大荷物を部屋に置き、3人揃って温泉に向かう。
「入り口がひとつしかないが、混浴なのか?」
そうして顔を見やると、
「へえ、バトさんはそれがいいのか」
返事も待たず、ロージアは暖簾をくぐる。

「待て、早まるな」
焦りを露わにするバトライの肩に、今度はガロウズが手を置く。
「当館の湯殿は時間交代制ですので こちらの入り口ひとつとなっております」
2人が遅れて脱衣場に入る足取りを、ロージアは湯の中から見ていた。

 熱い湯をさらに熱する体温の2人が、
豪快に湯を溢れさせながら入る。
「私たち3人だけでしたが バトライ様のお待ちかねはこれからですかな」

「そういうのじゃねえからな!」
赤い顔をますます赤くし、
「あと休みのときくらい、様はやめろ」
話題を変えるように静かに言い足す。

「ふむ、私も久しぶりに、腹を割りますか」
ガロウズの身体に並ぶ口々が蠢くが、
そのエイリアン・ジョークに気づかずロージアが話を振る。

「バトさんとガロウズ大将はお友達なの?」
「まあ、な。しばらく一緒にやってたことがあるんだ。
お互い自分の場を構えて以来、会うのは何年ぶりかな」

「へえ、バトさん顔が広いね」
「ええ全く、相変わらずで安心しましたよ。
さて、私はのぼせそうなので、少しぬるい所に行ってきますね」

超次元の空に浮かべる映像をガロウズとバトライの共演にし、
残ったロージアとバトライはじっくり見ていた。

「バトさんはお風呂でも剣になるんだね」
「1人であまり、場所をとるわけにもいかんからな」

「ふうん、意外と律儀だね」
バトライはじっと見つめられた顔を外らして、
「あんたの素顔を見るのは初めてだな」

再び顔の前に回り、
「そうだったね。感想は?」
またロージアから顔を背け、
「いつもの兜と、お硬い言葉使いのほうが落ち着くな」

聞くとすぐに、悪戯な笑みを浮かべる。
「そうなんだ。今は落ち着かなくて、どうなってるかな」
バトライは黙ったまま、
再び口を開くより前にガロウズ店長が戻る。

「御二方、他の方がいないとは言えど公共の場。
度を越えた行いは謹んでくださいね」
「のぼせただけだぞ。もうあがるからな」

 長椅子に座るバトライの隣に、遅れてガロウズも腰をかける。
「髪が多くて長い方は大変そうですな」
両手に持っていたコーヒー牛乳の1本をバトライに渡す。

「お前も、口が多くて長いから大変そうだな」
「食事に使う口はひとつですので、歯を磨く口もひとつですよ」
そのコーヒー牛乳を飲む口は、
バトライから見ても常識的な場所にあった。

「ガロウズ、殿堂入りしたらどうなる?」
珍しくしめやかな声に、同じくしめやかに返す。
知名度が、ますます上がるでしょうね。
そうなると館の管理に集中するため、
輸送サービスの縮小もやむなし、ですね」

「ああ、便利だったあれが。
苦心して作り上げてたろうに、残念だな」

「あなたも、あの名コンビと聞きつければファンが殺到しますよ。
そうなればとても戦闘どころじゃない。
明らかにあなたのほうが大変なことです」

「栄誉を受けるのも楽じゃない、といった所か」
はは、と笑ってコーヒー牛乳に口をつける。

「おまたせしました。ガロウズ大将、私もフルーツ牛乳をくださいな」

「へい、おまち」
クーラーボックスに1ダースの瓶を抱えて、
尽きぬ話題を笑いあう。

夕食も忘れて、従業員たちが探しに来るまで、
3人の談笑は続いた。