にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

喫茶 囁き

 コーヒーを飲みながら、人の囁きを聴く。
喫茶店を渡り歩き、所によって異なる人の傾向が、
新しい視点を貸してくれる。

物事に行き詰まったとき、
こうして視点をリフレッシュすると、
思わぬ解決の糸口が見えてくるのだ。


今日は都会の日曜日、カップルが近くの席に座った。
卓に置かれたパンフレットからして、
ゾンビ・パニック映画を見てきた直後と見える。

コーヒーを注文して、野帳の白紙のページを出す。
視点を拝借させてもらおう。


「ホームセンター襲撃のシーンかっこいいよね。
バラバラだった2人がついに同時に襲われて、
ゾンビ撃退のためと渋々ながら協力していくの」

盛り上がる声色からしても、空の皿からしても、
話はもうクライマックスといったところか。
彼女の言葉の断片から、まだ観ていない映画の情景が届く。

「同じ狙いだけど違う方法なのも対比きいてたよね。
片方が効かなくて、見せ合う場もあってさ」

彼は細部をこそ注目しているのだろうか。
対照的な2人が協力し、映画を髄まで味わい尽くす。
そんな雰囲気を纏っていた。

「その真下が本拠地だったのも、
確かホムセンは籠城戦をする前提で、
人が集まりやすいから理にかなってる」

「それで説明もなしに、やっぱりね、みたいな顔してたんだ。
確かに遠隔操作は咄嗟にできたほうがいいもんね」

もしや彼ら、目的と方法をきっちり分担しているのか。
横からでも、もちろんきっと本人同士にもわかりやすい。

2人はいい夫婦になる、あるいは既にそうかもしれない。
胸中で密やかに祝福する。


「最後も、守るために自分から飛び込むのに、
欲しいものはもう手に入ったって潔いよね。
自分の選ぶ道はもう決めてあるって感じで」

「それまで合理的だったのがいきなりだから、
じつは算段があって助かってそうだね」

「あ、そうか。エンドロール前に出てごめんね」

「2時間もあったらトイレぐらい行きたくなるだろ。
わからないからこその楽しみもあるし、これでいいよ」


 彼らの感想を聴くと、それぞれ注目する場所が確立していた。
女性の視点は目的に、男性の視点は方法に。

2人共に、相手とは別の部分に注目し、
そしてお互い違う部分を言い合い、
自分の考えに噛み合う部分で補い合うのだろう。

 目的と方法、そして分担。
のめり込むうち、
いつの間にか忘れていたことだ。
すぐに取り戻そう。

会計を済ませ、昼下がりの雑踏へと飛び込んだ。