にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

火弾の嵐! 狂乱のガソリン・スタンド

火弾の嵐! 狂乱のガソリン・スタンド

 

 知っていることがある。

汲み取られた友は暗く狭いタンクに押し込められ、
燃え尽きるまで人知れず機械を回すのだ。

 

 知っていることがある。
ポリ容器に連れられた友は、
ある時は燃えるその熱を取られ、ある時は悪行の片棒を担がされ、
燃え尽きるまで輝くのだ。

 

 誰から教わったのか、いつから考えていたのか、
気になった時には忘れていた。
既にどうでもいいことだ。
今から何をするか。
輝こう。
どうやって。
自分だけでは燃える方法も動く方法もない。
誰かに助けを求めよう。
誰がいるんだ。
返事が聞こえた。
頭も体も固そうな声だ。
──何者だ。
俺だよ。ガソリンだ。
──他にもいたとはな。私は給油ノズルだ。
どこにいる?
──地上だ。
手伝ってほしいことがある。
──聴こえた通りだけか?
話が早くて助かる。
──3時間後、都合のいい奴が来る。
その時に行くってことか。
──達者でやれ。
ありがとさん。

 

 3時間後、地上の人間たち。
「うえーっへー! アニキの土産でハイでっせー!」

「おい、ガソスタでは火を消せ」
「大ぃ丈夫っすよー! もしもの時は俺様っちの鋼鉄の左腕がありまっせー!」
給油ノズルに伸ばす手、押さえんと踏み込む別の手。
ノズルを持ちあげたその時、誰の力でもなく、
給油ノズル自身が意思を持つようにのたうち、
ガソリンを噴き出した。
たばこを咥えた顔が、身体が、バイクが炎に包まれ、
成長した種火は噴き出す側に引火、
周囲に火弾の嵐が降りそそぐ。
別の給油ノズルも1本また1本と踊り出す。

炎に乗って伝搬したか、近くで止まった車が炎に包まれたまま走り出す。
すれ違う車に意思と炎を分け与え、
炎の百鬼夜行に誘い続ける。
車からガソリンスタンドへ、ガソリンスタンドから車へ。

炎は県境を越え、山を越え、広がりゆく。
輝きは海の外、そして大気圏外へも届く。
月の奥底、意思を吹き込んだ張本人だけが笑い声をあげていた。