にんにくガーリック

元気に小説を書きます。金曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

ドリル店長 vs ノコギロイドXXX

ドリル店長 vs ノコギロイドXXX


 招待状

親愛なるドリル店長様へ
梅の便りと共にこの度、新型のこぎりを実用化したので、
披露パーティを執り行います。
能古桐 宵蔵(のこぎり・よいぞう)より


 階段を駆け上がる音。
立ち上がり、手紙を読みかけたままポケットに入れる。
「ドリル店長、大変です!」
「落ち着いて、まずは息を整えて」
2度の深呼吸を挟み、
「ノコギリを持った集団が来て、ドリル店長に用事だとかで」
「すぐに行きます。あなたは1階で、すぐ逃げられる準備をしていて」


 今朝までは1階にあった玄関が拡張され、シャッターのないガレージとなっている。
「これはこれはドリル店長、お久しぶりでございます」
言い終えると、わざとらしく振りかぶって頭を下げる。
「能古桐くん、突然やって来て、ご用事は何かな」
「もちろん、披露パーティですよ。1分15秒前に読んでいたでしょう」
ドリル店長の眉が寄る。
「出席するなんて返事はしてないのだけど」
「僕の紳士の教えは、レディを待たせることも、歩かせることも、決断させることも、すべて責任逃れの方法と理解しているよ。ちゃんと、招待した責任は、僕自身が果たさないと」
背後から黒服の集団が現れ、代わる代わるテーブルを、燭台を、銀食器を用意する。

「この様子からすると能古桐くんは、大工さんを超えたのかな」
「そうさ。大工の親方はノコギリへの愛がなかった。古ぼけた、ささくれたフライ返しみたいなままでいいと。これ以上は要らんと」
話しながら涙を浮かべて、続ける。
「止まらなければ、ノコギリはまだまだ進化する! その答えのひとつがこいつだ!」
髪の先を持ち横に伸ばす。ツーブロックの頭が地肌を見せる。
「わかるか? 髪の1本1本が糸鋸になってるんだ。先月の新商品、装備型ノコギリだ」
ドリル店長は黙ったまま、品定めをするように目を細める。
それを受けた能古桐は上機嫌に喋りだす。
「この子の開発は、ドリル店長のおかげでもあるんだ。
高校で一目見てすぐ、すごく憧れたんだ。頭につけたドリルと、その回転を感情表現にも採り入れるドリル愛! ドリル店長は卒業してすぐ、遠くに旅立ったって聞いたから、2年後に僕も卒業してすぐ、ノコギリを研究し始めたんだ」
整列した黒服の何人かがハンカチを目元に当てる。
「能古桐くん」
ドリル店長が口を開くと同時に、能古桐は口を閉じて顔を上げる。
「初めて話した日も、今日みたいな寒い日だったね」
ドリルをゆっくりと左回転させながら話す。穏やかな喜びの回転だ。
「さて能古桐くん、昔話はこのくらいにして、そろそろ現在の、そして未来の話をしようか。今日はそのために来たのでしょう」
「もちろん、望むところさ。ノコギリ・フォーメーション!」

 整列していた黒服たちが跳び上がり、ある者は腕を片側にまとめ、ある者は腹を割り、やがて1体の巨躯としてドリル店長を見下ろした。
安定を重視した6本の脚が反り返る勾玉型の胴体を支え、
広範囲に届く3本の腕が回転刃の標的を探る。
ドリル店長には、これが生命体とは思えなかった。
どの昆虫図鑑にも頭がない虫は載っておらず、
どの生物図鑑にも金属の刃を比喩でなく持った生物は載っていない。
胴に跨り驚きの表情を見下ろす能古桐は、回転ノコギリの音を背景に商談を始める。
「これが今月の新作、ノコギロイドXXXさ! 驚いたかい? 普段は30人の黒服として家事を手伝いながら、必要とあらば合体して主人を守る殺戮マシーンと化す! 家事・防犯・防災・戦争! 手厚く幅広く請け負う機械の兵隊だよ!」
サイレンの音が遠くから聞こえてくる。
まだ回転ノコギリの音が優勢のうちに、ドリル店長は笑う。
ひとしきり笑い終えると、これまで誰にも見せたことのない口角で、
「それで婿入り道具のつもりかな? お返しに私も見せてあげよう‥‥ドリルの秘められたる性能を!」
ドリル店長はバック宙を半回転、頭から地面に落下する。
失敗ではない。頭のドリルが地を掘り、その場には深淵に続く穴だけが残った。
能古桐の驚きをただちに地鳴りが上書きする。
突如、大口を開けた地面がノコギロイドXXXごと能古桐を飲み込む。
「ようこそ、地底のランドマークタワーへ」

 ドリル店長は王座から見下ろす。
能古桐は初めて見る風景を目に焼き付ける。
形勢逆転。どの空港よりも広く整った直方体の部屋を埋め尽くすドリル機械群が、ひとつの四字熟語を全方位から叩きつける。
「さて能古桐くん、ドリルの紹介の前に思い出してほしいのだけど。
ここに来る時に通った穴の分の土や瓦礫はどこでしょう?」
能古桐は見える範囲をどれだけ見回しても、整った床と輝くドリル機械だけだ。
「正解は、すでに元通りでした! 後から誰かが来ても、もう塞がった穴は見つからないので安心してね」
「ドリル店長、一体何のつもりで‥‥」
「何のつもりでは能古桐くんのほうだよ! パーティだからって大騒ぎをして、
それじゃあ台無しになっちゃうじゃない! 騒ぐのは賑やかとは別物だよ!」
「あれは、ちょっと、気分が乗っちゃって」
「理由はもうなんでもいいの。ここなら騒いでも大丈夫。声も存在も漏れないから」
「‥‥ドリル店長が僕と2人きりになる場所を用意していたなんて」
ノコギロイドXXXの腕1本が自律的に分離し、ハンカチを能古桐に渡す。
「能古桐くん、相変わらずね。周りの目があるときの威勢が、2人きりになると保たないの」
3度の深呼吸を挟み、
「いえ、今のは突然で驚いただけです。ちゃんと成長しましたよ。レディのお部屋にお邪魔した紳士の振る舞いをとくとご覧あれ」
「へえ、期待してみようかな」


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「ドリル店長、もしやこの地下は、騒ぎからかばう意味もあったのですか?」
「んー、どうでしょうね。それより私のドリルコレクションかっこいいでしょ。今度遊びに行くから、そのときはノコギリコレクションを見せてね」
「明日でいいですか?」
「おっさすが、手入れはばっちりだね」
「ドリル店長から教わったんですよ。毎日使うものは毎日綺麗にって」