にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

株式会社ハウスクリーナーズ

 株式会社ハウスクリーナーズ研修開始だ!
新入りに説明しよう。まず家の特徴を把握するんだ。
クライアントからの情報によると、この家は火災対策が万全だ。
つまり、火炎放射器が使用可能だ!
善は急げだ! ファイアーーー!

「先輩、本当に大丈夫なんですか?」
「もちろんだとも。こいつは業務用の高火力機な上、燃えやすい家具を予め配置してある。もちろん天井には空気穴を開けてあるぞ。10分もすれば並大抵の中身は黒い粉としかわからん。
さて、お次は煤の掃除だ。箒は持ったな」
先輩は返事を待たずに手を動かし、後輩は背中に続く。
「先輩、窓ガラスが溶けてだめっぽいですが」
「ガラスは交換が予定されていたものだ。気にすることはない」
暁に始まり、曙に去る。
社訓に違わぬ早業を、静かに見つめる男が1人。

 その日の昼。
「良い仕事っぷりだったな」
「エマーソン教授!」
「えっ! いつも話してくれる、先輩を導いてくれたという‥‥?」
「そう、あのエマーソン教授だ。ちょうどいい、おやつを食べながらお話を」
「ありがとう。‥‥さて、君たちに折り入って頼みたい仕事があるのだが」
先輩は珍しく歯切れの悪い言葉を気にせず話を続ける。

「教授にそう言っていただけるとは光栄です。どういった内容でしょう」
「この家なんだが、いくらか難儀でな」
「ファイルを失礼します。‥‥この写真は、犬小屋でしょうか」
「地上はな。この下には広大な地下施設があるのだ。
この秘密基地が組織に目をつけられたようで、やむなく廃棄することになった。一切の痕跡を残さず掃除してほしい」
「組織とは?」
「それは話せん。知ってしまえば君たちにも危険が及ぶ」

エマーソン教授の依頼を確認し、時計を確認する。針は既に4時を回っていた。

「株式会社ハウスクリーナーズ、受けた依頼は必ず綺麗にします」
先輩の決まりの挨拶を聞き終えて、湯呑みに手を伸ばす。
「待て! 2人とも、この茶を飲むでないぞ。目の前を雫が落ちた。天井裏から毒を盛られたのだろう」


 受けたはいいものの計画は難航する。
得意の炎は地下なので使えず、セメントも広すぎて使えず、
さらには詳しい間取りも、置かれた家具もわからぬままだ。
「先輩、どうしましょう」
「新しい方法を用意せねばならんな。しかし生憎、俺は発想力ってものがない」
「綺麗にする、というのがこれほど難しい物件があるとは思いませんでした」
「全くだな。空っぽにできないならせめて、もう見えなくできれば」

「もう見えなく‥‥そうだ! いいことを思いつきましたよ先輩。ウランですよ!
放射能で汚染してしまえば細心の注意を払った処理が必要になります。つまり、秘密裏に奪うことが、もうできなくなるんですよ!」
ウランか‥‥なるほど説得力もあるよい案だな。
よし! 善は急げだ!
さっそく用意して出動するぞ! あと次からお前の給料アップな」
「ありがとうございます! ところで用意ってそんな簡単に言いますけど」
「もちろん、コネがある。頼めばすぐに持ってきてくれるさ」

 暁に始まり、曙に去る。
寒空の下、2人の男が地下に往く。
「まずは隠密型重機で中身を小さな破片にする。動かすぞ」
隠密型の静かな刃が、書類を、ガラスを、破片にかえてゆく。

「先輩、ウランの準備が整いました。こっちはいつでもいけます」
「まて、その前に塩水だ」
「そうでした、もう入れますか?」
「いや、どうやら排水孔があるようだ。塞いでからだな」
ひとつ塞いでは塩水を流し込み、別の排水孔の在り処を探る。
予想だにしない排水孔の数。
部屋ごとに平均5個の排水孔は、ただの排水だけではない、別の目的を予感させる。

「よし、どうやら全部の排水孔を塞いだな。破片も水没させた。最後の仕上げだ」
「はい、それではいきます」
後輩のリモコン操作でカプセルが一斉に開き、ウランが各部屋に放たれる。
「これで仕事完了だ。一杯やって帰るぞ」
「はい! 一時はどうなるかと思いましたが、無事に掃除できましたね」

朝のジョギングをするおじいさんと会釈して、次の依頼を求めるのだった。

 

(この物語はフィクションです)