にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

【カードゲームの話を書きたくなった】運命の女神は並べ置くまで

 カードバトル議決特例法が施行されてから5年。
一部のゲームショップでしか買えなかった高額カードも、今ではコンビニエンスストアでさえ扱うものとなっていた。
より正確に言えば、反対派の店舗は顧客からも同業者からもカードバトルを挑まれ、そして事業からの撤退、あるいは改宗を余儀なくされたのだ。
昨今の話題をさらうのが、物心ついた時からカードバトル英才教育を受けた、ネイティブ・ファーストエイジたちだ。
 彼らは直感的にカードの活躍機会を理解し、最大限の成果に繋がる瞬間を見逃さないと言われ、
つい先日も市内ファストフード店全体の値下げが行われたようだ。

 明日は我が身、と気を引き締める彼は漫画家、遠藤正臣(えんどう・まさおみ) 45歳。
カードバトルで大手月刊誌の連載を勝ち取り、今日は28日ぶりの正装でドームに立つ。再試合が認められる日だ。
舞台上の席に着くと、審判が声を上げる。
「これより、53歳編集長・林本勇人(はやしもと・はやと)と、45歳漫画家・遠藤正臣の、カードバトルを開始する!」
言い終えると同時に観客が沸き立つ。
この場を保証する6人の審判が自己紹介をする間に、
デックの準備を始める。
イカサマをしていないと見せるため、
イカサマはさせないと伝えるため、
お互いの60枚を無作為の順番に並び替える。
専門的な言葉で表すならば、ヒンズー・シャッフルとファロー・シャッフルを繰り返し、最後にワンカットだ。
両者の準備完了を審判が認めると、議題の再確認を行う。
「53歳編集長・林本勇人の勝利の末には、45歳漫画家・遠藤正臣による連載を打ち切りとする!
45歳漫画家・遠藤正臣の勝利の末には、連載は継続する!
この場で訂正の申し立てがなくば、試合の開始をもって成立とする!
この試合の首席審判を務めるは、32歳国家審判官・本田一郎太(ほんだ・いちろうた)、以後お見知り置きを」
形式ばった挨拶が済むと、次に口を開くのは53歳編集長・林本勇人だ。
「遠藤くん、君の漫画は素晴らしいものだが、あまりにカードバトルの先進すぎる。読者の子どもたちが真似て、彼らの好みに合わないいくつもの漫画が歪められてきた。今回こそ打ち切りにさせてもらうぞ」
「挑まれたカードバトルに負けたあとなんですから、勝てそうな相手を選ぶよりも重要なことは済ませました?」
「まずは君からだよ。どのみち、まだ再戦不可期間は明けないからな」
月刊誌と漫画の結末をかけた2人の試合を、
変声期にも届かない声が応援していた。


(この物語はフィクションです)