にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

二次創作『イニストラードを覆う百合の隆盛 2』

『イニストラードを覆う百合の隆盛 2』
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 このごろ悪い夢を見る。大切な人と身を寄
せあう所に、誰かが武器を構えて襲ってくる
夢だ。町のゴシップ屋によると実はいいこと
が起こる兆候らしいが、そういったいいこと
は起きていない。
 何より私は孤立していた。同年代とも、家
の中でも。

 ある日のことだ。前日の雨で道がぬかるん
でいたので、迂回のため馴染みのない道を歩
いていた。不気味な森に近づいた頃、白昼で
ありながら、悪夢の声が聞こえた。
 夜だったら狼男や吸血鬼と思うかもしれな
いが、今は昼。正体が何者なのか見当もつか
なかった。好奇心が勝り、覗いてみることに
した。入口の木がまだ見える範囲だけ。
 仮に危険に喰われても、誰も困らない。

 少しの木をかきわけ、岩陰の暗がりを覗く
とそこには、二つの身体を持つ天使が横たわ
っていた。頭のひとつが行方不明になり、片
方の身体はほとんど空洞のようだ。近くで見
ていると、寂しげな声が穏やかになった気が
した。
 可能であれば毎日ここに来よう。そう決め
ることに躊躇はなかった。
 背中で聞く声はまた寂しげに戻ってた。

 日毎にいくらか回復しているようで、掠れ
た声ながら名前を聞けるようになった。聞き
間違えていなければブリセラというらしい。
 ゴシップ屋から聞いたことがあった。遠い
昔、仲睦まじい二体の天使が身体を重ね合わ
せた。それが彼女なのだ。
 しかし今は、その片方を失っている。寂し
げとは思っていたが、想像より遥かに辛い思
いをしていた。

 通ううちにわかってきたことがある。彼女
は月を見上げて何かを祈るような動きをして
いる。
 遥かな昔、銀の月に巨大な女神が封印され
たと聞いたこともある。何か関係があるのだ
ろうか。しかしただの天使がそれほどの長生
きをするとは思いにくい。ましてやこの傷で
生きているなど、常識的にはありえない。

 ブリセラは見違えるほどに回復し、共に出
かけられるほどになった。散歩をしたり、お
泊まり会をしたり、吸血鬼狩りをした。言葉
も扱えるため、食べたものの感想を言い合っ
た。

 それでも言わないでいることがある。そう
見える。遠慮しているような、抱え込んでい
るような。

 思い切って直接の質問を投げかけた。直接
の答えはやはり濁すが、ヒントにも聞こえる
ので、勝手に考えることにした。
 目線を思い出した。仕草を思い出した。
 ひとつの発想にたどり着いた。
 確信はないものの、とりあえず試してみる
ことにした。

 寝ている間に、ブリセラの失われた半身の
空洞に入った。すぐに気づき驚いている様子
だが、嫌がってはいなさそうだ。
 喜んでいる。嬉しくなった。腕よりも強く
抱きしめられた。抱きしめた。
 思考が、感情が伝わってきた。言葉もなく
直接受け取り、返事にも言葉は不要となり、
ひとつの身体になったのだ。
 これで二人とも、もう寂しくない。

 銀の月も祝福している。そんな気がした。

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二次創作『イニストラードを覆う百合の隆盛 1』

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 スレイベンの町外れにある小屋には歳若い
吸血鬼が住んでいると言われている。賢明な
多くの者は近寄るどころか目を向けさえしな
かった。元々がひっそりした場所であり、誰
かが困るわけでもないので、噂話の他には誰
も気に留めず、求めていた事情と合致した。 

 一人の人間が扉を叩いた。スレイベンでも
指折りのベテラン検査官と名高い、壮年の女
性だ。この家には向けるのは民衆が知る厳し
い視線ではなく、緊張の解れた瞳であった。
 扉が開き、吸血鬼の女性が顔を出した。

「やあおかえり、長かったみたいだね」
検査官は荷物を置きながら答えた。
「そうね、たっぷり6時間も。おかげで今日
見つけた手がかりはたっぷり29個だよ」
「お疲れ様、マッサージしてあげようか。先
にご飯がいいかな。それとも」遮るように切
り出した。「あなたは、いいものは見つかっ
たの?」
 吸血鬼の言うマッサージは人間には刺激が
強く、彼女が作る食事はとても食べられる物
ではない。どちらも思い出すだけで吐き気を
催すので、無理矢理にでも話題を変えたかっ
たのだ。

「大漁。またサメが活躍する夢を見てる人が
いてね、退治に使った丸太に似た丸太を拾っ
ておいたから、いつでも頼ってね」
 人間から見ると、吸血鬼は見た目や言動に
反して感性があまりに幼い。検査官も呆れ半
分で安楽椅子に座った。冬の床板より冷たい
座面にも慣れていた。

 他愛ない話をしながらでも、検査官の職業
病か、顔色を手がかりとして捉えた。
「変な奴ばっかり見てない? あんたの精神
まで心配になるよ」
「この顔は、君の帰りが遅かったからだぞ」
「精神病棟ばっかりじゃなくて、たまにはど
うだい」
 検査官と吸血鬼は共に小さな頭陀袋に手を
かけた。
「久しぶりの夜のお散歩だね」

 二人はスレイベンの外れ、町のゴシップ屋
に紹介された名所、ソリン岩に来た。記事か
ら数年のうちに、何者かによってその口は岩
に埋もれていた。
 まずは記念撮影をした。もちろん、右肩を
下げるポーズだ。
 あまり気分がよくなかったので、改めて別
の場所で記念写真を撮った。

 出会った当初と比べて夜の散歩は遠くまで
歩くようになった。この日はネファリア地方
を一望できるホテルへ向かい、休憩すること
にした。
 その道中、溺墓の前を通る検査官の目は輝
いていた。やっぱりお互い結構な物好きねと
笑いあった。
 ホテルハンウィアーは、過去に栄えた要塞
からその名を借りている。人と馬と住居が共
に暮らす、二人三脚の助け合いの精神を掲げ
ているのだ。
 この屋根の下、二人はいつにも増して仲が
良かった。

 夜空から二人を見下ろす、銀の月が満足げ
に微笑んでいた。