にんにくガーリック

元気に小説を書きます。水曜日のお昼ごろ更新の予定。このブログの内容は、特別な記載がない限りフィクションです。

『ゴゴゴゴンベエ』2話(全4話)

『ゴゴゴゴンベエ』2話(全4話)


 大会の受付時間。
これまでは理由もなく参加していなかったが、
仲良くなったボウの思い出を聞き、
興味が出てきたのだ。
普段のローリングCでは大会をしていないので、別の店へと出向いた。
ゴンベエとボウは一緒にエントリーを済ませた。
開始時間まで13分、2人は移動の準備を整えてゲーム1度だけ始めた。

 1回戦が始まった。
今日の参加者は16人、最後まで勝ち続けた1人が優勝だ。
ぴったり16人のおかげで、4試合でちょうど優勝者が決まる。

 緊張して始まった1回戦は予想外に普段と変わらず、
ゴンベエは実力を遺憾無く発揮した。

運営スタッフへと結果を報告しに行くと、先にボウがいた。
「勝ったよ。ゴンベエくんはどう?」
「勝った! 意外といつもと同じだね」

 2回戦の席が発表された。
席にいた相手は、マスクで表情を隠し、
プレイマットに青と黄色と薄橙色が並んでいた。
彼が高校生かもっと上か、
ゴンベエには区別がつかなかった。
「よろしくお願いします」
相手は返事をしない。

 何も喋らないが、ゴンベエはめげずにゲームを進めた。
「《ブレイズクロー》で攻撃」
相手は黙ったままカードを表にする。
そのカードには《ヘブンズ・ゲート》と書かれていた。
手札から2枚のカードを場に置く。
そのカードにはどちらも《音感の精霊龍 エメラルーダ》と書かれていた。

 黙ったままカードを横に向け、手札に戻し、別のカードを出した。
そのカードには《時の法皇 ミラダンテXII》と書かれていた。
黙ったままで山札から1枚を引く。

「マナチャージをして、まず《ブレイズクロー》を召喚、それで《グレイト"J-飛"》を召喚、手札が1枚なのでコスト無しで《"轟轟轟"ブランド》を召喚」
そこまで聞いた後で、黙ったままで自分のカードを指差す。
そのカードには《時の法皇 ミラダンテXII》と書かれていた。
ゴンベエは何を言いたいのかわからず、
首をかしげるばかりだ。

「こいつの効果で、召喚できないの」
初めて声を聞いた。抑揚が薄く、呆れたような声だ。

 結局、ゴンベエは負けてしまった。
それ以上に対戦相手の態度に衝撃を受けていた。
これまで100人を超える人を見てきたが、
言葉もなくゲームをする者を見たのは初めてだ。

 すぐにローリングCに戻ると、何を言うでもなく店長が異変に気づいた。
「ゴンベエくん、顔色が悪いが何かあったのかな」
ゴンベエは出来事を話した。
大会に行ったこと。
広げたプレイマットに破廉恥な絵が描かれていたこと。
マスク人間に驚いたこと。

「大変だったね。僕にも何かできればと考えておこう。
とりあえず今日のことから。奥で友達が待ってるよ」
ゴンベエの友人たちが、新しいデッキを持ち、
今日こそ勝つぞと息を巻いていた。

 その夕方から店長は考えていた。
大会に興味が出るのは自然なことだ。
そんな時に安心してゲームできる環境が、
少なくともローリングCでは提供していない。
うちで大会を開けば、
そんな不届きものを追い出すことはできる。
しかし、自分にそんな判断ができるだろうか?
もしやりすぎてしまえば安心どころじゃない。台無しだ。
そして大会となれば、また違った客層がやってくる。
今までいたお客さん達と馴染んでくれるだろうか。

三日三晩レジに立つ時もお風呂の時も頭を捻り、
来たる朝、店長はパソコンに向かった。

 別の日曜日、ローリングCにおける初めての大会が始まった。
ゴンベエもボウも、そしてあの時のマスク人間もいた。
1回戦でマスク人間は同じプレイマットを取り出した。
店長の目にそのイラストは場をわきまえない物と見えた。
もしもこの格好の人物が歩いていたら、警察が黙っていないだろう。
「君、このプレイマットは使わないでくれ」
一言を聞くと、マスク人間は理由も聞かずに片付けた。
店長の目には、それが波風を立てない彼なりの処世術に思えた。

対戦相手となる小学生がやってきた。
マスク人間はゴンベエの時と同じく、黙ったままでゲームを進める。
最初は同様、やがて明らかな萎縮が見えた。
やはり決断するべき時だ。

「試合中に失礼。カードゲームは会話のゲーム、それで会話を放棄したために対戦相手を萎縮させてしまっている」
深呼吸を小さく一度。

「残念ではあるが君は失格、そして今後の来店は禁止だ。
お客さんに安心してもらうために協力してくれ」
「そんな横暴でやってけるのかよ!」
マスク人間の抑揚のない大声にも、
店長は変わらず淡々と答える。

「そのせいで潰れたなら僕の責任だ。
君は心配しなくていい。
この店の責任者は僕だ。
君を追い出すことが一番いいと思った。だからそうする」

 結局、マスク人間は5分とせずにローリングCを後にした。
ゴンベエには、他の常連たちにも、
店長の顔が今日はいつもより逞しく見えた。

 

『ゴゴゴゴンベエ デュエマのある日々』

『ゴゴゴゴンベエ』1話(全4話)

 権藤ゴンベエは自転車を走らせ、地区カードショップ"ローリングC"へ向かっている。
赤信号が普段より長く感じるこの日は2018年6月23日(土)。
そう、『デュエル・マスターズTCG 拡張パック双極編第2弾 逆襲のギャラクシー・卍・獄・殺!!』の発売日だ。
先手必勝の高速攻撃陣に《"轟轟轟"ブランド》がさらなる速度を与え、
迎え撃つ鉄壁の防御を《卍・獄・殺》がさらに盤石にする。
ゴンベエは胸の高鳴りをさらけ出し、
新しい高速戦略を研究してきた。
副産物として、苦手だった算数の成績までよくなった。
その成果を披露する日がきたのだ。

 予約していたパックを開封し、その場でデッキを組みあげる。
そこにはあらかじめ考えていた3個のデッキに加えて、
この場で見て思い浮かんだ1個もあった。


店の奥にあるトイレから、とぼとぼと出てくる姿を見た。
ゴンベエはすぐに駆け寄って声をかけた。
「ヒロシ、何かあったのか?」
察知した雰囲気が気のせいであってほしい、
今日もゲームをしたいと思っていた。

しかしゴンベエがデッキを整える間、ずっと出てこなかったのだ。
ヒロシは上ずった声で答えた。
「制服の中学生が、僕の考えてたデッキを、そんなの弱いって」
ゴンベエは怒りに燃えた。
同時にヒロシの胃を案じた。

「ありがとう、もう落ち着いたよ」


 同じ席に戻る途中で人影に気づき、ゴンベエは耳打ちをした。
「あいつか?」

「制服は同じだけどその人じゃない、
そいつらはもうどっか行ったよ」

ヒロシとデュエマをしようと思っていたが、
まだ元気がないので、そっとしておくことにした。

他の相手は強そうな人ばかりで、
しかしゴンベエはどうしてもデュエマをしたい。
勇気を出して、ひとり手を空けていた中学生に声をかけた。

「はじめまして、デュエマをしませんか?」
「いいよ、デュエマだね。
デッキを出すからちょっと待ってて。
僕の名前は直中ボウ(ただなか・ボウ)、よろしく」

今まででいちばん歳が離れた相手に、
ゴンベエの不安はすでに興味に変わっていた。


デュエマ・スタート!

ゴンベエの先攻で1ターン目、火のマナをチャージして早くも動いた。
「1マナで《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚!」
小さなトカゲのクリーチャーではあるものの、
様子見をする暇もない速度が控えていることはボウにもすぐにわかった。

「こちらのマナチャージは闇、1マナで呪文《ブラッディ・クロス》を唱えよう。
お互いに山札の上から2枚を墓地に置く」

ゴンベエにとって、山札は減って困るものでもない。
しかし、減った分を見て狙いを予想されてしまう。
「ほう、《ドリル・スコール》を入れているのか。
相当な速度特化のようだね」
考えの一部を見られ、対策されやすくなるのだ。

「マナチャージして2マナ、早速行きます。
《ホップ・チュリス》と《職人ピコラ》を召喚、そして、」

新しいカードを早速使う、これもゴンベエには初めてのことだ。

「手札を1枚にしたので召喚コストなしで《"轟轟轟"ブランド》を召喚! そして1枚引きます」
気分がいよいよ高揚してきた。
「攻撃!」


「《"轟轟轟"》からか。
おっと、ここでシールド・トリガーが来た。
《堕魔 ドゥグラス》を出すよ
ブロッカー能力で続く《ブレイズクロー》を受け止める」


しかし算数が得意になるほど考えてきたのだ。
めげるにはまだまだ遠い。

「《堕魔 ザンバリー》を出そう。
そして魔導具が2枚出たから《魔凰 デ・スザーク》の無月の門を使用するよ。
墓地の魔導具はさっきのやつと、今ザンバリーで捨てた《グリペイジ》だ。」

高速での攻撃を仕掛けたゴンベエを、
高速での防御が受け止める。

「そして登場時能力だ。
君のクリーチャー全てのパワーを-3000する。
耐えられないクリーチャーは、《"轟轟轟"》以外の全員か」

クリーチャーが一気に除去されたが、
ゴンベエは動じなかった。
残り3枚のシールドのうち、2枚は《"轟轟轟"》で破れるので、
必要なのはあと2回だけ、しかもそれをやりやすいデッキを練ってある。


「2マナで《ミサイル"J-飛(ジェット)"》を召喚!
残ってくれた《"轟轟轟"》で攻撃だ」

「トリガーは、おっとまた来た。
《デビル・ハンド》で《"J-飛"》を破壊して、山札から3枚を墓地に用意する」

3ターン目にして怒涛の攻撃と、
それをいなすほどの防御の激突だが、
ゴンベエの思い描いた速度は多少の障害を乗り越える。

だからといってボウもやられるばかりではない。
「《堕魔 グリギャン》だ。さらに3枚を墓地に用意」
防御を固めつつ、さらなるコンボの準備を進めた。

「《"轟轟轟"》で攻撃!」
ゴンベエの迷いのない攻撃が最後のシールドをブレイクした。
次の一撃が決まればゴンベエの勝利だが。

「シールド・トリガー《卍・獄・殺》だ。
墓地にあるカードは僕のは9枚、君のは5枚。
ギリギリ間に合って合計13枚以上になってるね。
クリーチャー全てを破壊だ」

「そしてターンの終わりに《卍月ガ・リュザーク卍》が墓地から蘇る」

 

「《ザンバリー》と《卍デ・スザーク卍》を追加して、もう安全だろう。攻撃だ」

防御で消耗させたら、大型クリーチャーで一気に勝負をつける。
逆転の芽はあるものの、そのためには同時に複数のカードが必要で、
しかしそれを可能にする方法にも手を回している。
八方塞がりにさせた所で、満を持して攻撃に転じた。
もちろんまだリスクは残っているが、
長引かせるよりは小さいと踏んだのだ。

「来た! シールド・トリガー《セブンスセブン》!」

「失礼、確認を‥‥なるほど、勉強になった」

防御の要となる《デスザーク》を山札に戻した。
リスクを軽くした、とは言えど、
結果的に踏み抜くこともある。
ボウは根拠のある選択なら、
結果を受け入れるのが大切だと学んでいた。


「マナチャージして、手札がこれ1枚になったので《"轟轟轟"》をコストなしで召喚、1枚引いて捨てて《ザンバリー》を破壊、そして《"轟轟轟"》で攻撃! します」

決着した。ゴンベエの勝利だ。
思い描いた動きをして、表情にも喜びが溢れ出る。

「ありがとうございました。盤石にしたと思ったけど、やられちゃったね」
「ありがとうございました。大型が並んで対処できるカードはシールド頼りだから、
どっちにしても最後に踏むか踏まないかだったと思う」
お互い感想戦を好んでいたので、
気を使わないままでも話が弾む。

「今日はたまにはってことで来てみたんだ。
君とゲームできてよかったよ」
「もう一回やろうよ!」

こうしてゴンベエの友達が増え、日常をますます楽しく過ごした。
勇気を出して声をかけたら楽しかったので、
初めてのことを他にもやってみよう。
その決意は日をまたぐ前だった。

第1話 おわり (全4話)